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醤油ソムリエールの肩書で全国の醤油蔵を取材し、紹介活動をしている黒島慶子さんに、醤油についてお話を伺いました。

2018年6月15日(金)


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2.「生産者と消費者とのつなぎ役」の意味

阪本蔵元を見学して、主にどういうところに感銘を受けたのですか?

黒島造り方です。自分も美術の世界でものづくりをしていたせいか、人が何かを生み出すことに関心がありました。

阪本職人さんの世界って感じがしますよね。

黒島そうです。女性が立ち入れない世界、奥さんですら現場を知らないってことが多いんです。
そんな状況だったので、初めの頃は、20歳の女の子が醤油を教えてくれとやって来て、きっと困っておられたと思います(笑)。
当時は発酵ブームなんてまだ全然なかった時期で。私も「学校の課題だから教えてもらえないと帰れない」と頼み込んで、渋々教えていただいていました。

阪本醤油に魅了されたから、大変だけどなんとか進んでこられたのですね。

黒島醤油って、気候風土に根付いて造られるし、その人だからできる味があるんですね。
それが生きがいや誇りにつながっていく。
きちんと醤油を造る蔵元さんのお仕事ぶりを見ていく中で、そういうことに惹かれるようになっていきました。

阪本ここまでお話しを伺って、『食の3重丸』と考えている方向が近いと思いました。
先ほどの「100年後の子供たちへの視点も」そうですし、「選びたい人が選べるような状況をつくる」とか、家族に食べさせるものと同じ想いでこだわって作っている、そういうつくり手さんが頑張って続けていけるように応援したいのが、食の3重丸の考えでもあります。

黒島想いの方向性が近いですね。
このような想いある行動が増えていくと、未来が変わると思っているので嬉しいです。

ここで黒島さんが、著作物の「醤油本」を見せてくださいました。

黒島この本を出版する時点で、1300の蔵元のうち、130ほど回ったんです。
130の蔵元さんも個性がいろいろなんですよ。
それに、地域が違うと、その地域の方が「美味しい」と思う基準も変わってきます。

阪本たくさん行ってらっしゃいますよね! すごいと思います。
興味のある蔵元さんのことは、どうやって知るのですか?

黒島知人からの紹介や、醤油品評会で評価を得ている蔵元さんなどから、興味を持ったところを取材しに伺う感じです。
1300の蔵元さん全部へ行こう、と言う発想はなく、なるべく想いの感じられるところに行きたいと思っていますし、「ここはいいな」と思った蔵元さんには何回も伺っています。

阪本蔵元さんに伺った時に、気になるポイントのようなものをお持ちなのでしょうか?

黒島自分が蔵元に対して「いいな」と思うポイントが3つあるんです。
・きちんと想いがある
・その想いが蔵に反映されている
・働いている人が生き生きしている
この3点をしっかり感じられる蔵元さんが好きです。
一方で、3つ満たせてなさそうでも気になる蔵元さんもあります。
蔵の香りが良いと、醤油の香りが良いところが多いですね。
蔵元さんに到着した瞬間、わかるんですよ。

阪本想いが蔵へ反映されているとは、どういうところでわかるのですか?

黒島広島県にある蔵元さんの例ですが、醸造の際に、すぐに人が手を入れるのではなく、大豆や麹菌などが持つ自然の力を支え引き出すように1年以上寝かせる。醤油造りを通じて家庭料理や食卓・健康を想い、蔵は人の体と同じと捉えて常に清潔さを保つ、櫂棒や手でもろみと会話するように混ぜる、など。
こういったところに、醤油造りに対する考えや愛情が見えてきます。
その蔵元さんの造る醤油は美味しく、味のブレも少ないのですが、多くはありません。

阪本職人さんの経験値というか、試してみないと分からないことを、きちんと試されているんでしょうね。

黒島醤油造りが好きで、自分で探求して見つけられたことなんですよね。
だから、取材していても言葉に説得力があるし、後継の方にもその考えが伝わっているように感じます。

阪本想いを持ってやっている蔵元さんと出会うこと自体、黒島さんにとっても貴重な経験になりそうですね。

黒島想いを持つことって、伝統を持つことに繋がっていくんですね。
ただ、想いの強さ故に、後継の方との間で衝突があるという話もよく聞きます。
醤油は味を変えてはいけない、という考え方があるようなので、跡継ぎの方が違うことを思いついて実験しようとする時点で否定されることもあるようで、やる気の高い蔵元さんは親子喧嘩が多いみたいです(笑)。
伝統と革新のバランスみたいなことなのでしょうね。

阪本互いに強い想いがあるからこそですね。
「生産者と消費者とのつなぎ役」でいたい、と言われていますが、詳しく教えていただけますか?

黒島醤油ソムリエールとしては、選ぶ基準を正確な情報で伝えて、ご希望に合うマッチングをすることが、つなぎ役のあるべき姿だと思っています。
スーパーに行っても、そんなにたくさんの醤油がある訳でもないし、いつも正確な知識で売られている訳でもない。そのために、偏りのない情報を伝えることを心がけています。

阪本「選ぶ基準」自体がさまざまですものね。

黒島そうなんです。
「好き」や「ダメ」の理由は、人によってさまざまですよね。
自分のスタンスとしては、醤油としてあるものは一旦すべてを肯定した上で、主観的ではなく客観的なことを言おうと思っています。
大量生産を悪く言う方もいらっしゃるけど、今それが世の中からなくなったら、それはそれで大変じゃないですか。だから、それも良しというスタンスで。

阪本個人の蔵元さんも、大手の製造企業も、それぞれの良い点があると言うことですね。

黒島そうです。
「客観的なこと」と言うのは、醤油でいうと官能検査という、主に色と香りで醤油を品評する仕事があるのですが、これによって、醤油の特徴を説明できるようにしています。

醤油は「薄口」「濃口」「再仕込み」など、JAS法で色が決まっており、出荷の基準にもなっています。
熟成期間でも変わる基準が変わり、長ければ長いほど良いわけではないのですね。
旬があります。醤油業界でよく言われるのは、3年熟成がピークで、それを過ぎると香りが劣化し、風味も分解されて味がなくなると言われています。

阪本どれを美味しいと思うかも、人によって異なりそうですね。

黒島3年を過ぎた醤油でも好きな人はいらっしゃいます。
風味に欠点があると、醤油の官能検査員としてはマイナスをつけざるを得ないのですが、これを美味しいと愛用している人もいるので、ソムリエの立場の時は、「それはダメですよ」とは言わないところもあるんです。

阪本それに加えて、地域ごとの違いもあるんですよね。

黒島全国の蔵元さんへ行くとわかるのですが、地域ごとに好まれているものが違う。風土も気候条件も生理状態も違う。
私としては、知識の偏りを避けるために全国の蔵元さんを訪れ、彼らの考えをきちんと聞きながら情報をまとめているつもりです。

阪本官能検査員という立場と、ソムリエという立場の二つがあるんですね。
食の3重丸も、認定製品は選択の一つであるとしています。認定製品以外はダメだと否定しているのではないのですが、ダメだと判定していると思われることも時折あり、それが悩むところです。
もっと伝え方を頑張らないといけないですね。

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